1.概略

1990年にスタートし、今年で13回目。
 今回のテーマ作曲家は近藤譲、招待アンサンブルは、韓国の若い打楽器アンサンブル「Banachas」。
 全国から180名近くの学生が集まり、音楽大学の教授や講師なども多数集まった。
 大規模な音楽祭だが、実行委員は僅か数名の若い作曲家たちである。
 毎日、朝10時から夜9時まで、コンサートやワークショップなどが開かれる。その間、受講生たちは、会場の近くの青少年修練場に共同で宿泊し、深夜まで交流を深め合う。
 スケジュールの合間には、テーマ作曲家のレッスンを受ける事もできる。
 私がこの音楽祭に参加することになった理由は、2002年に作曲した、フルートとピアノのための「蔦」が、この音楽祭の「世界の若い作曲家コンサート」に選ばれたためである。
 音楽祭参加が決まった後、実行委員、金重希の企画で、オープニングイベントにも出演することとなった。


    音楽祭のチラシ



2.スケジュール


 6月24日

・オープニングイベント、書道パフォーマンスと即興演奏

 イー・ホンジェ(書道家)、寺内大輔(声、その他)、三宅珠穂(打楽器)
 10メートル四方もの大きな紙を地面に広げ、イー・ホンジェはその上を歩きながら全身全霊で大きな文字や絵を描く。
 私は声とソプラノリコーダーを用い、三宅珠穂は様々な打楽器を用いて即興演奏。
 書道家と即興演奏がお互いに呼応する形で、1つのパフォーマンスを作り上げる。3種類行われた。

・YM作曲コンクール本選コンサート

 この音楽祭主催の、YM作曲コンクールに出品された若手作曲家の作品による作品演奏会。この時演奏された8人の作品の中から、1人にYM賞が贈られる。今年は、ヤン・ヨンヒ氏が受賞。



6月25日

・YM作曲賞候補作品プレゼンテーション

 前日のYM作曲コンクール本選コンサートで演奏された作品について、作曲家自身によるプレゼンテーション。

・打楽器ワークショップ
 
 
韓国の若い打楽器アンサンブル「Banachas」による作曲家向けのワークショップ。

Banachasコンサート

 現代の打楽器のための作品のコンサート。S. ライヒ「木片の音楽」他。

・近藤譲作品コンサート

今年のテーマ作曲家である近藤譲の5作品(「高窓」「老人のホケット」他)が演奏された。



6月26日

・プレゼンテーション、寺内大輔、ジョン・コール

 26日の「世界の若い作曲家コンサート」の作品について、作曲家自身によるプレゼンテーション。このコンサートでは6作品が選ばれていたが、実際に音楽祭に出席したのはカナダの作曲家ジョン・コールと私の2名。
 受講生との質疑応答もあり、「発展する音楽と変化する音楽」「クライマックスのない音楽」について活発な議論が展開された。

・近藤譲、自作を語る
 
 オーケストラのための「桑」の譜例を使って、作曲の方法についての講義。


・委嘱作曲家の作品コンサート

 フェスティバルから、7人の韓国人作曲家に作品を委嘱している。

・コンサート「世界の若い作曲家たち」
 
 音楽祭実行委員によって選ばれた、若い作曲家の作品コンサート。
 私の作品も演奏された。

・クロージングイベント、韓国サムルノリ

 韓国伝統音楽サムルノリのコンサート。



書道パフォーマンス終了後


クロージングコンサート、サムルノリ



3.金重希(キム・ジュンヒ)へのインタビュー

金重希は、音楽祭の中心的実行委員の一人である。こうした大規模な音楽祭の開催にあたり、たいへん熱意を持って様々な仕事をこなしておられた。以下は、音楽祭についてのインタビューである。

寺内「まず、この音楽祭についての、概要を教えてください。」
 金「若い作曲家は、ヨーロッパの音楽祭へ行きたがります。なかでもダルムシュタット音楽祭は人気が高い。しかし、国内でできることは国内でやりたいのです。」
寺内「皆がヨーロッパに行けるわけではないので、国内での音楽祭も大切ですね。」
 金「そうです。ヨーロッパも良いけれど、こちらでもできることはまだたくさんあると思います。」
寺内「ヨーロッパは留学先としても人気が高いのですか?」
 金「ドイツが人気です。ドイツ以外の国に留学する人もいるけれど、そう多くはないです。」
寺内「それなのに今回のテーマ作曲家は近藤譲なのですね。」
 金「私の推薦です。全体的に韓国の作曲の学生には、近藤譲のような音楽はまだあまり知られていないですから。」
寺内「刺激を与えたかったのですね。」
 金「そうです。」

寺内「韓国には、このような音楽祭は、他にはないのですか?」
 金「いや、たくさんあります。でも、この音楽祭のように、受講生が共同で宿泊するような形の音楽祭はあまりありません。」
寺内「今年の招聘作曲家は近藤譲ですが、これまでには?」
 金「これまでには、パクパーン、ペンデレツキなども招いています。」

寺内「ずいぶん大勢の参加者がいたようですが、結局何人くらい集まったのですか?」
 金「学生だけで、全日程参加者が150名、部分参加を入れたら180名になりました。」
寺内「多いですね。その中には作曲の学生もたくさんいるんですよね。」
 金「ほとんどが作曲の学生です。」
寺内「そんなに?日本では考えられない!」
 金「そうですね。韓国では、作曲の学生はとても多いのです。作曲の学生が100名以上在籍する音楽大学は、大邱だけで3校ありますし、ソウルだったらもっと多い。」
寺内「なぜそんなに多いのですか?」
 金「もちろん、全員が将来作曲家になりたいと思っているわけではありません。中には、学校の教員を第1希望にしている者もいます。作曲を学んでいれば、教員採用試験の時に音楽理論で点が稼げますからね。」
寺内「すると韓国では、作曲というと、音楽理論全般という認識があるのでしょうか。」
 金「そうです。」
寺内「では、日本の音楽大学で言う『音楽学』や『音楽教育』はどうですか?」
 金「ありますが、あまり人数は多くないです。」
寺内「なるほど。」
 金「それから、これはお恥ずかしい話ですけれど、『ピアノが無理だったから作曲にした』という消極的な理由の学生もいます。実技は、やはりスタートの年齢が早くないと難しいところもありますから。」

寺内「この音楽祭では、作曲コンクールも行われていますね。」
 金「はい。YM作曲コンクールというのを開いています。予選通過者は、演奏会で演奏され、それがそのまま本選審査になります。過去の受賞者は、優れた作曲家として国内外で活躍しています。」

寺内「これだけ大規模な音楽祭だったら、資金繰りもたいへんでしょう。」
 金「スポンサー集めですよね。これはどこの音楽祭でもたいへんだと思いますけれど。」
寺内「でも、大邱放送局のような大きな企業もたくさん協賛していますね。」
 金「私がその担当です。大変でした。」

寺内「この音楽祭は、作曲家が中心になっているようですけど、演奏家はあまり参加しないのですか?」
 金「将来的には、演奏家も広く関わることの出来る音楽祭にしていきたいですね。韓国の演奏家は全体的に、現代音楽を演奏するのを嫌がる傾向にあります。この音楽祭に演奏家がもっと関わることによって、現代音楽をレパートリーに持つ演奏家がたくさん育つようになって欲しいと思っています。」


 このインタビューからは、この音楽祭だけでなく、韓国の音楽大学の状況などについても知ることができ、とても興味深かった。

 彼女の実行委員としての仕事ぶりを聞いて「たいへんでしょう?」と聞くと「たいへんですよ。」と正直な答えが返ってきた。しかし「でもね、自分のためじゃない。文化のためですよ。使命なのです。」と続けた彼女の態度が、強く印象に残った。



  運営委員の皆様と



  音大生たちと









↑書道パフォーマンスの録画の一部
地元のテレビで紹介された。

戻る
報告:第13回 大邱国際現代音楽祭

2003年6月24日〜26日 大邱青少年修練場、啓明大学校

直線上に配置
直線上に配置