2001年、広島の旧日本銀行で開かれたアートイベント「YEN」に参加した際、詩人の此下慎也氏の作品が展示されていた。それは、言葉がクロスワードパズルのように縦横さまざまに並べられた作品で、どこからどのように読んでもよい詩であった。
私はまず、目に飛び込んできた言葉の数々が、意識の中で次第に印象を形成していることを感じ、次にひとつひとつの言葉を目で追うことによって、それらの印象がはっきりしていくのを感じた。私は、こういった言葉の認識体験が、音楽によっても実現可能であると考えた。合唱では、複数の声部で、いくつかの言葉を同時に歌うことが出来る。そのため言葉は曖昧になり、印象は音楽の経過とともに聴き手の意識の中で次第にはっきりしてくるだろう。
「あかつきをまちこがれて」は、本作のために私から此下氏に委嘱して書き下ろして頂いた詩である。
僅かな変化、成り行きがはっきりしない音楽、それはちょうど此下氏の詩のように閉じた空間を満たして完結している。ここでは、言葉の意味や音楽の成り行きよりも、言葉の持つ印象と静的な時間経過を重視している。合唱とピアノから立ち現れる響きの中で、耳に飛び込んでくるいくつかの言葉の印象をつなげながら聴いて頂きたい。