自転車の音楽


 先日,友人に古い楽器ツィターをプレゼントした。
 出かける際,私は自転車を使ったのだが,楽器をお腹に刺すように抱え,ハンドルの上に乗せて支えた。ハンドルを握る手首と手首の幅が楽器の大きさに丁度良く,ハンドルとお腹との距離も楽器の大きさにぴったりだった。

 さて,運転中,自転車なので当然両足の太ももが交互に上下する。その際,楽器がハンドル部分に交互に当たり,大変面白い音が出た。左足が下がる時には「ゴーン」という低い音(言葉で説明するのは難しいが,クラシックギターの胴の裏を手の甲の骨で叩いたような余韻を持った音だ),右足が下がるときには,「カッ」というやや高い音が出た。
 ゴーン,カッ,ゴーン,カッ,ゴーン,カッ,,,,2つの音による単純な反復だが,耳に心地良い音だ。

 さらに面白かったのは,

1.テンポやリズムが一定でないこと。自転車を漕ぐスピードによってテンポが変わる。

2.テンポやリズムについて,自分でコントロールできる割合が微妙であること。速く漕げば早くなり,遅く漕げば遅くなるので,ある程度コントロール可能だが,交通事情や道の状態,つい出てしまう普段の運転の癖など,コントロール外の要素によっても変化する。

3.道がでこぼこしている時には,「ゴゴンゴカゴン」のような,反復を遮る音が挿入される。目の前の地面の状態が乱れているのを見つけた時には,「おお,あそこではどんな音が来るのだろう」というワクワク感が楽しめる。

 2種の音しかないにも関わらず,大変興味深い音楽で,道のりの約30分,存分に楽しんだ。多数に聴かせるには不向きな,運転者にしか楽しめない贅沢な音楽である。

 今回その楽器は友人にプレゼントしたが,この経験を元に,もっといろんな音が出るように自転車改造に着手しようか,とも考えた。そうなると,いっそのこと広い土地に,でこぼこ道を含むサーキットコースを造って「1周走って1曲」みたいな音楽を「作曲」するのも面白いかもしれない。スケールが大きくなり過ぎて,金銭的にも非現実的だが,こういうアイデアは想像するだけでも楽しいものである。


ツィターって何?という方はこちらをご覧下さい。
http://www.musical.jp/harp/d3.htm