トランクのリズム

 少し前になりますが、初めてトランクを買いました。
 トランクを使う状況は、“日常”ではないかもしれませんが、トランクを使い始めて知った“密かな音楽の愉しみ”があります。

 建物の中や、駅、空港、街の中などの床は、アスファルトばかりではなく、タイル張りだったり、模様のついたブロックだったり、場所によって、さまざまな素材や大きさがあり、並び方にも個性があります。
 普段は気にも留めていないのですが、トランクを転がすと、たちまち、床の模様や素材とトランクの車輪が呼応するように、一定のリズムを刻みます。
そのトランクのリズムを耳にすると、思わず、自分の歩く速度とトランクのリズムを合わせようと加減したり、刻まれるリズムに合わせて心の中で拍子をとったりしてしまうのです。

 トランクを転がす状況は、旅の途中だったり、イベントごとだったり、気持ちが弾んでいることが多いので、そのリズムを聴くと、ますます楽しい気持ちが増します。
また、一度聴いたリズムはどこか記憶の片隅に残っていて、旅先から地元に戻ると、そのリズムで、「戻ってきた」という安堵感を得たり、現実に引き戻されるような感覚になったりもしますし、逆に、旅先でも、再び同じ場所を訪ねることがあると、そのリズムをきっかけとして、以前その場所を訪ねた時のことを思い出したりします。

 ちなみに、好きなのは、三連符(一歩あたり3枚)の床です。



挿絵:ERuka