チューインガムとウィンカー

 自動車の運転中のこと。

 赤信号で停車中、チューインガムを一粒、口に含み、奥歯で噛んだ。
 ガムの内側のやわらかい部分に歯がめり込む音が「ニュッ」と聴こえる。ガムの表面は硬い糖質でコーティングされているため、それが壊れる「パリッ」という音も混ざっている。次に、閉じていた上の歯と下の歯を離す。ガムは上と下のどちらかに纏わり付きつつ「チャッ」と音を立てる。
 再び歯はガムにめり込む。コーティング部分がさらに破壊される音は、「バリパリッ」と1度目よりもやや複雑だ。
 歯の上下運動は繰り返される。同じような音が繰り返されるが、全く同じ音は2度と訪れない。
 
 自動車からは、ウインカーの音が「チッチッチッチッ」と鳴っているので、そのテンポに歯の運動を合わせてみた。「チッ」で片道、「チッチッ」で往復、歯の運動とともに自分の口の中に響くガムの音と、ウインカーの音の組み合わせが、なかなか面白い。自分の内側で響く音と、外側からもたらされる音との重なりに注意してみると、聴覚の軽い混乱をおぼえる。

 楽しんでいる間に、信号は青に変わった。



補足説明:
ガムを噛む音は、口を開けながら噛むのと、口を閉じて噛むのでは異なるが、この時には口を閉じて噛んでいた。