即興演奏

 アムステルダム旧教会,2007年1月18日  
 
 演奏:寺内大輔(走りながらの声)
    三宅珠穂(息の音,マイクを使用) 

 解説:
 アムステルダム旧教会での即興演奏。
 ここは,かのスウェーリンクがオルガニストを務めた教会でもあり,彼の墓もある。ヨーロッパの教会の多くは,音響が極めて湿っている場合が多い。人気の少ない時などは,かすかな足音や声でさえ,存在感を持って響く。ここ旧教会も,同様に湿った音響空間だが,場所や方向を変えることによって様々な響きの表情を作り出すことができるのが面白い。
 私は,移動しながら演奏することで,音の動きや響きの変化を楽しめる音楽にしようと考えた。この日の聴衆は教会の中心に位置していたため,様々な場所から音を届けることができるだろう。だが,この意図を効果的に実現するためには,かなり速く走らなければならない。声の表情は,肉体の状態に左右される。疲れて息を切らせば当然声にも影響するので,やや不安もあったが,私は走りたいように走り,声は自然に出るに任せることにした。音色を変化させながら,ぐるりと一周,緩急をつけて走り続けた。
 このアイデアは成功した。私は走っている本人だから,聴衆にどのように聴こえているのかは想像するしかないのだが,多くの聴衆から好評を頂いた。聴衆のひとりは「音が糸をひいているようだった。」と語った。寺内が走り去った後も,しばらくその場所に声だけが残っていた,と。

 この演奏の醍醐味は何と言っても生演奏だが,録音でもある程度の音響空間の雰囲気が伝わると思い、ここに公開する。
 




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