STUBNITZは、ヨーロッパ各地の港を巡りながら、コンサートやイベントを行う船である。http://www.stubnitz.comで、いくつかの船中写真を見ることができる。
 ここでは、8月7日にこの船で開催された二つのイベント「Japanese 600 old history dance with amaizing voice」と「Sounded body Sounding body」の模様を、写真とともに報告したい。
 


STUBNITZ。アムステルダム中央駅から渡し舟で15分、船着場から徒歩2分。


 まず、「Japanese 600 old history dance with amaizing voice」から。
 出演者は、
丸町年和(能)、寺内大輔、三宅珠穂(音楽)の3名。丸町氏とは、2003年に広島のKOBAにて共演して以来、今回は4度目の共演となる。KOBAにおける共演は、初めての共演だったにも関わらず、大変素晴らしい演奏であった(自分で「素晴らしい」と言うのもおかしいが、実際、これまでの即興演奏の中でもかなり満足度の高い内容であったように思う。その時の録音は何度聴いても色褪せない魅力に満ちたものだ)。三宅珠穂とはこれまで何度も共演してきているが、この3人の組み合わせは今回が初めてであった。

 


 丸町氏との共演の特徴は、張り詰めた緊張感とお笑いとの微妙な共存だ。私の経験上、即興演奏家は沈黙が苦手な人が多い。私にも良くわかるのだが、本番中の沈黙は大きなプレッシャーとなって演奏家にのしかかる。沈黙が少しでも続いたら、「何かしなくては」という観念が働いてしまうのだ。その点、能の訓練に支えられた丸町氏は、沈黙を恐れない。彼は恐れずに長い間止まることができ、止まったまま緊張感を持続させることのできる力ある踊り手である。私と三宅氏もまた、恐れずに沈黙を作った。会場の扉は締切り、緊張感が常に漂っている。


 

 緊張感は、常に微妙なバランスの上にある。そういったバランス、音と沈黙の関係を日本人は「間」と呼ぶ。だが、ここでの聴衆にはいまひとつそれが伝わらなかったのかもしれない。私達は、わざとそういった「間」を崩したりすることによって「お笑い」を共存させようとした。日本での公演時には、客席から笑い声が聞かれたが、今回はあまり聞かれなかった(聴衆はほとんどがオランダ人であった)。少数を除き、大半の聴衆には、私達の舞台は極めて真面目なもののように映ったようだ。また、緊張した空気が常に流れている状況では、その間合いが可笑しくても「笑っても良いのかどうか」戸惑う聴衆も多い(これは日本での公演でも同じであったが)。

 


今回用いた楽器は、
寺内:声、テナーリコーダー、ソプラノリコーダー、
   鍵盤ハーモニカ、プリングルスギター、口琴、など
三宅:声、シンギングボウル、テルミン、ベトナム箏、
   ノーズフルート、ギロ、カスタネット、など


 次は、「Sounded body Sounding body」、丸町氏との共演から30分も経たないうちに公演を始めなければならず、楽器の移動や着替えなど、大急ぎで準備をしていた。
 FONOMO+は、襲田美穂(舞踏)、松村志野(楽器装置、声)、河本知香(声)によるユニットに、比嘉了(MAX/MSPプログラム)、久米希実(衣装)を加えた5名で構成され、今回は寺内、三宅も加わっている。FONOMO+の特徴は、松村氏が考案、製作した楽器を用いることだ。ダンサーの手足に結び付けられたゴム紐の動きをコンピュータが読み取り、MAX/MSPプログラムで音に変える。ダンサーは動きによって音を奏で、また音によってダンサーが動く。「Sounded body Sounding body」というタイトルも、そうしたコンセプトから名付けられた。



ダンサー襲田美穂


 

 
寺内と三宅は、音楽だけでなく、踊りにも参加。衣装は久米希実によるオリジナル。


 演奏はうまくいったと言える。完全な即興演奏でなく、何度か打ち合わせをしたことが良い結果につながったように思う。ただ、今回私が感じた問題は、「豊かな残響」の中で音をコントロールすることの難しさである。今回の演奏では、、現場の持つ響きに加え、コンピュータによって豊かなディレイをかけ、まるでお風呂の中のような残響に設定していた。こうした豊かな残響は、特殊な音空間を演出するには優れているが、一方で音空間をどうしても大味なものにしてしまう。以前私は、アイントホーヴェンで残響7秒という特殊な空間で演奏したことがあるが、ソロ演奏だったにも関わらず、その響きの中での音のコントロールには大変苦労した。ましてや音を出す人間が5人もいる今回のような演奏では、もはやコントロールするどころではない。だが、この豊かな残響の中でこそ、松村氏と河本氏による声の演奏が魅力を帯びるものであったし、FONOMO+の持つ音楽には、この残響は欠かせないものでもある。三宅と私は、音をコントロールするよりも、むしろ様々な色をキャンバスに塗り重ねるように音を連ね、その音空間を次々と彩っていくことに専心した。前述の丸町氏との演奏と対極にある音作りと言っても良いだろう。





 最後に、舞台裏で撮影したいくつかの写真をここに紹介する。

 
写真左:左から、三宅、松村、河本。写真右:久米


 
写真左:襲田。写真中央:寺内。写真右:左から寺内、比嘉、河本。



STUBNITZの公式サイトはこちら

FONOMO+の公式サイトはこちら
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報告:STUBNITZにて
  〜丸町年和、FONOMO+、三宅珠穂との共演〜

2005年8月7日 アムステルダム、STUBNITZ

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