2004年にスタートしたばかりの新しいフェスティバル。今年は2回目。
第1回は小規模な音楽祭だったそうだが、第2回の今年は、世界7カ国から多数の音楽家が参加した大規模なものとなった。フェスティバルは3日間にわたって行われ、昼はレクチャーやワークショップ、夜は演奏会が開かれていた。
参加作曲家、プログラム等の詳細は、ジョグジャカルタ現代音楽祭2005 (YOGYAKARUTA CONTEMPORARY MUSIC FESTIVAL 2005)の公式サイトで紹介されている。
この音楽祭に参加することになった理由は、私の「流れ〜ヴァイオリンとピアノのために〜」が演奏会の曲目に入選したためである。日本からは、私の他、田口雅英、三宅珠穂の作品が演奏された。
音楽監督のマイケル・アスマラ氏(Michael Asmara)は、自身も作曲家。「インドネシアでは、現代音楽はとてもマイナーでアンダーグラウンドです。音楽大学でさえこういう音楽を取り上げません。このフェスティバルを通じて、現代音楽を少しでも広めたいと考えています。将来的には、この音楽祭が世界有数の現代音楽の中心地と言われるように成長させたい。」と語っておられた。
私は、9月23日にジョグジャカルタに到着した(音楽祭は28日に始まる)。リハーサルはほぼ毎日行われ、音楽祭宣伝のために地元のラジオ番組に3回生出演し、テレビ番組にも1度出演した。それらの合間を縫って、ボロブドゥールや王宮に代表される観光地を訪れたり、ジャワガムランや影絵(ワヤン・クリ)を楽しんだりもした。
演奏者達は、音大の学生を中心とした若いメンバーだ。彼らは、日頃クラシック音楽の訓練を積んでいるが、現代音楽の経験はほとんどない。リハーサルでは、譜読みを一から始めなければならないほどだったが、やる気に溢れ、熱心に取り組んでくれた(ただし、ヴァイオリン奏者は熱心なイスラム教徒で、ほぼ毎回リハーサルの途中で30分モスクにお祈りに行ってしまうのだが、、、)。
実行委員会のスタッフ達も、少人数にも関わらず大変情熱的だった。音楽祭の準備で忙しい中、作曲家達をリハーサルのたびにホテルから芸術大学までバイクで送迎し、リハーサルには飲み物とお菓子を持ってきてくれる心配りが大変嬉しかった。正直なところ、運営上うまくいっていない点もいくつか感じたが、今年でまだ2回目の音楽祭なのだから、少々そのようなことがあっても仕方のないことかもしれない(のんびりとした国民性も原因のひとつだろう)。それよりも、彼らの熱心さ、親切さ、好奇心(馴染みのない「現代音楽」に対して、大変興味を持っていた)、そしてその陽気な笑顔がとても印象に残っている。
昼間のセミナーでは、中川眞氏による「障害者との即興演奏」についてのレクチャーを除いて、他のレクチャーをすべてサボってしまった。同じ時間にリハーサルが入ったことも理由のひとつだが、多くのレクチャーはインドネシア語で行われるので、出席しても内容がよくわからないためである。
演奏会では、実に幅広いジャンルの曲が取り上げられていた。他の現代音楽祭の場合、現代音楽とは言っても、ある特定の傾向に、何となく偏っていると感じることがある。しかし、この音楽祭では、ヨーロッパの伝統的な雰囲気を持った曲、アメリカの実験音楽の影響が多分に感じられる曲、電子音楽、民族音楽を取り入れた曲、即興演奏を取り入れた曲、演劇的要素を取り入れた曲など、様々な傾向の音楽が取り上げられていた。このことは、私にとって大変興味深い。演奏会は、お国柄のためか常に予定より30分程度遅れて開演し(20時頃)、深夜まで延々と行われた。
さて、この音楽祭、今後どのような音楽祭に成長していくのだろうか。セミナーと演奏会を消化していくだけでは、インドネシアに現代音楽を広めることはできても、世界の現代音楽シーンにこの音楽祭の存在をアピールしていくためには、まだまだ何かが足りないと感じる。演奏会にも、更なる興味深い企画を盛り込んでいく必要があるだろうし、演奏家も、現代音楽作品の演奏経験を積んで、より高いレベルの演奏を目指していかなければならないだろう。また、他の多くの現代音楽祭と同様、運営資金の問題も深刻だと聞いた。大規模になったこの音楽祭が、今回の成功と反省を生かし、どのように変化していくか、今後も注目していきたい。
演奏会場、ジョグジャカルタ芸術大学ホール
音楽監督のマイケル・アスマラさん(中央)、作曲家の田口雅英さん(右)
私の着ているTシャツは、音楽祭オリジナルTシャツ。
ヴァイオリン奏者のサチャワンさん(Setyawan Jayantoro)と。
若い作曲家と、実行委員会のメンバー
宣伝:
今回の入選作品「流れ〜ヴァイオリンとピアノのために〜」の楽譜が、マザーアース株式会社より好評発売中です。ぜひ、お買い求めください。
2005年9月28日〜30日 ジョグジャカルタ芸術大学