G.ビゼー

1838年〜75年、フランスの作曲家。
 代表作は、「カルメン」、「アルルの女」。
 幼少より優れた音楽的素質を現し、10歳でパリ音楽院に入学。
 
18歳でローマ大賞を受賞し、イタリア留学。
 帰国後は、作・編曲家、ピアニスト、音楽教師を兼務。
 1874年、カルメンを完成。翌年3月に初演され、その3ヶ月後に急死。享年36歳。

登場人物とストーリー

カルメン。これほどまでに強烈な個性を持った主役も珍しい。
 強く、セクシーで、危険な女。そして自由。
 彼女の個性は、周囲の登場人物の性格をもくっきりと照らし出す。彼らは、主役の個性に支えられ、お互いに引き立てあうように性格づけがなされている。それによって、脇役たちもまた、ひとりひとりが輝いているのである。
 我々の側からは、どの人物を中心に据えても、興味深く味わうことが出来るだろう。彼らは、個性を際立たせながらも、どこかその辺に居る人たちを思い起こさせる。本作が、時代を超えて人々の心に訴える力を持つのは、まさにこの理由によるものが大きかろう。 ストーリーもまた同様である。作品中に起こる様々な事件は、現代にも置き換え可能なものが多い。我々は、舞台を通して、我々自身の生活の断片を垣間見るのである。

音楽

 まず、旋律が凄い。
 1つのオペラの中に、これだけ多くの名旋律が惜しげもなく書かれている。
 一度聴いたら忘れられないほどの個性的な旋律が、容赦なく聴き手の心に入りこむ。
 自然な音の成り行きと、均整のとれたフレーズ。しかし時おりそれらを打ち砕く動きがある。期待と裏切りの絶妙なバランスが、歌い手たちの風を受けて、鮮やかに舞うのだ。磨き抜かれたうたごころを、心ゆくまで味わってもらいたい。
 オーケストラも忘れてはならない。旋律を支え、各場面における様々な感情を、極めて効果的に表現している。同じ旋律にもかかわらず、異なる伴奏によって全く違うムードを醸し出すのだ。
 場面に合った音楽は「名場面」を生み出す。本作品には、名場面と言われる箇所が数多くあるが、音楽と場面との一体感なしには名場面は生まれない。音楽は場面を呼び覚まし、場面もまた音楽を呼び覚ます。ビゼーは、ムードメイカーとしても一流であったのだ。
 だが、彼は、単に物語に合った音楽を書いただけではない。その効果的な使い方も知っていた。例えば、本公演冒頭に現れる、運命を表わす音楽。こうした音楽は至るところで特定の場面や感情を呼び覚まし、我々の心を自然と作品に引き込んでくれる。
 また、本作品には、複数の感情が同時に表現されている場面がいくつかある。第一幕のミカエラとホセの二重唱では、ホセの母親からことづかったキスに自分の想いを託すミカエラと、故郷の母に思いを馳せるホセの微妙なすれ違いが表現されている。また、第三幕のカード占いの三重唱では、占いの好結果に心躍らせるメルセデスたちと、死を予感して狼狽するカルメンの姿が対照的に描かれている。
 このような場面においても、音楽の自然な流れを損なうことなく、複数の感情をはっきりと提示しており、彼のムードメイカーたる傑れた腕前が窺える。舞台上に現れるさまざまな感情は、交錯しながら聴き手に印象付けられるのである。
 最後に、ムードについて、もうひとつ特筆すべき点を挙げておこう。
 この作品は、スペインを舞台としているため、音楽にもスペインのムードが意識されている。だが、驚くべきことに、ビゼー自身は一度もスペインを訪れたことはなかった。彼は、憧れという想像力を駆使してこの音楽を書いたのだ。それにしては、彼の音楽の説得力はなんと豊かなのだろうか。我々をそこへ誘うには十分過ぎるのだから。

ビゼーは、写実を重んじていた。
 神話などではなく、現実の物語。欲望、執念、嫉妬、そして破滅------台本によって語られた愛の現実を、彼は見事なまでに音楽で描ききった。
 ビゼーの死後、カルメンは、古今東西のオペラの中でも、世界的な成功を収めた数少ない名作のひとつとなった。ヴァーグナー、プッチーニ、ブラームス、チャイコフスキーなどの作曲家たちも、この作品を褒め称えている。

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HIOS カルメン
2003年2月22日、23日 広島アステールプラザ
直線上に配置
直線上に配置

本公演では、解説だけでなく、チラシの文章も書きました。